先日、芥川賞を受賞し大ヒット作と化している又吉直樹氏の「火花」。もはや社会現象ともなり今年の流行語大賞受賞も決定的という話もちらほら。この「火花」を通していろいろなことが巻き起こっていますのでこの現象を考えます。
“史上初”が巻き起こしていること
平成27年7月16日(木)、お笑いコンビ「ピース」の又吉直樹氏が初めて書いた小説「火花」が、お笑い芸人として史上初めて第153回芥川龍之介賞を受賞しました。その日から、連日テレビを中心に各メディアで大々的に取り扱われ、「火花」の20万部増刷が決定し7月29日現在で累計144万部に到達しました。しかしながら未だに予約待ちが多く、店頭は在庫切れで枯渇状態、まだしばらくはこの熱狂は止みそうにありません。
「火花」芥川受賞は、小説の売り上げのみならず、書店チェーンや電子書籍企業、さらには又吉氏がキャラクターとして出演しているファッション通販企業の株価さえ押し上げ影響は拡大し、また又吉氏のように隠れた才能を探すという面からも注目され、野球界では元巨人の桑田真澄氏のピアノ、芸能界ではアイドルグループ嵐 大野氏の絵画など複数の才能を持つ人物にもブームの波が来ています。さらに余談ではありますが、現在の相方である綾部氏に格差ネタをも提供することとなり、皮肉にも格差が拡大することで相方の復活をバックアップするという珍現象さえ生んでいます。
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急拡大の要因と新たな需要
過去にもミュージシャンが芥川を受賞し話題になることはありましたが、当時とは比較にならないスケールで現象が起こっている裏には、又吉氏のキャラクター&SNS、デジタルツールの連動の影響が多分にあります。
お笑いという、芸能人の中でも比較的顧客に近い芸人は、ツイッターやLINEでネタとして共感しやすいので拡散しやすく、また又吉さんのキャラクターがどちらかといえば根が暗いキャラで売っていることもありますのでそのプラス面が出ています。
つまりSNSでのポジティブな意見は拡散しやすく、作品に対する厳しい意見や批評ですらも不思議とすんなり受け入れられる空気感が、又吉キャラあるいは彼の人格・人間性により受け手に出来上がっており、「おもんない」「ダメ」などの厳しい意見がSNS・メディアで言われたとしてもすぐに炎上や急激にブームが縮小する雰囲気が全く感じられません。逆に「そんなことはない」「実際に確かめよう」という応援の感情がうまれ、これほどまでのブーム・売り上げを後押しさえしているのではないでしょうか。
また、印刷書籍の在庫切れが影響しているため、電子書籍の売り上げも拡大しておりアマゾンのキンドルストアやイーブックジャパンなど各電子書籍販売サイトでも累計約7万4千ダウンロードを越えています。電子書籍で圧倒的に強いマンガを押しのけて、大手電子書店各サイトのランキングで1位を獲得し、異例の進撃を続けています。
芥川賞受賞と又吉キャラ、SNSとの相乗効果で、過去と比べ圧倒的に早く大きいブームと化した「火花」、今まででしたら書店の在庫切れで販売機会を失い、印刷が完了したころには沈静化していた・・ということもあったのですが、今どうしてもすぐに読みたいという読者は電子書籍に向かい、作者や出版社から見れば販売機会のロスを防ぐ、電子書籍会社や電子書店から見ると電子書籍購入のきっかけになるという好材料になっています。
かねてからニュースサイトで電子書籍元年というテーマで取り扱われることは多くあったのですが、実態としてはなかなか電子書籍が急拡大するきっかけは少なかったのも事実です。しかし今回の「火花」の社会現象で、印刷本の不足という現象が電子書籍を購入するきっかけになるという、絶対に必要という実需をもって電子書籍が動き始めるきっかけになってくれればと思っています。
まとめ
「火花」ブームはまだまだ入り口にすぎず、これから実写やアニメなどの映像化、舞台化、翻訳による国際出版、さらには次の作品へ・・・と小説家又吉氏への期待はますます膨らみます。そして“お笑い”は人を笑わせるという極めて難しく高度な仕事ですので、潜在的な小説家は多くいらっしゃるように思います。又吉氏のこの成功をきっかけに、第2、第3の又吉氏が世に出てくれば、お笑い界の幅がさらに広がり、お笑い界出身の小説が日本のエンターテイメントを代表して世界に進出する、その小説を通して世界が日本のお笑いを知り楽しむ、という好循環のシナリオを描けると信じています。