広島カープが最下位になったどん底の4月から、たった1ヶ月で巨人を追い抜き首位に躍り出ました。開幕から5戦連続負け越しチームの優勝確率0%から奇跡の大復活です。こんにちは、コンテンツプロデューサーの佃です。今回は、短期と中・長期戦略について。
新井貴浩氏引退試合 山本浩二氏、黒田博樹氏とともに
新井、丸の穴は大きかった・・
2019年プロ野球開幕の巨人戦に、大瀬良投手の奮闘で今季初勝利し、今年もいつも通り独走か、と思われた矢先、チームのバランスが大きく狂ってしまいます。
1番田中にはじまり、バティスタ、松山、会沢など主力選手が軒並み不調で打率1割台を連発、ピッチャーでは岡田がストライクが入らず2軍降格、当初のローテーションが崩れるとともに、バッティングの不調のためか内野手もエラーを連発、名手菊池のトンネルはチームの不調を象徴するものとなってしまいました。
昨年まで精神的支柱だった新井、そして押しも押される主力でもあり打線のつながりに欠かせない存在だった丸が抜け、選手・首脳陣が「新井・丸後の体制」をどうするべきか、暗中模索状態に陥っていったのです。
さらにデータによると、開幕から5戦連続負け越しチームの優勝確率0%というショッキングなニュースまでテレビやネットで飛び交い、ごく一部にはまとめ買いしたチケットを早目にさばこうとしたファンもいたとかいないとか。
とにかく、広島とファンは混乱状態に陥った【魔の4月】になってしまいました。
打線固定は緒方采配の長所の表れ
そこでこの状況を打破すべく、5月上旬の首脳陣ミーティングで打線の固定化を決断。
3番にバティスタ、5番に西川を配置、不調の田中を下位打線に下げ、打率が高く俊足の野間を1番に固定したことで、潮目が大きく変わっていきました。
それまでは3番、5番は日々流動的に変わるスタメンで精神的に不安定なうえに、さらに悪い結果が続いたため「丸のいない体制をどうやって作っていくべきか?」という問いに対して答えの出ない毎日で、チーム全体がさまよっていました。
しかし、スタメンを固定化することで「だれがどこで使われるんだろう」という不安を払しょく、バッティングに集中できる環境となったことで、各選手の実力が時間の経過とともに発揮され打線もつながり、得点力が大幅にアップしました。
もともとよかった投手陣は打線との相乗効果で先発・中継ぎともにレベルアップし、破竹の10連勝そして首位奪還を達成した・・という流れです。
短期と中・長期戦略
ビジネス・経営でいうところの短期・(中)長期戦略をプロ野球に当てはめてみますと、短期戦略はCS・日本シリーズ、中期戦略はシーズン、長期戦略は監督就任期間3-5年といったところでしょうか。
短期・(中)長期戦略はそれぞれ異なりますので、経営者や首脳陣が頭の中で戦略を切り替え、社員や選手にその戦術・戦略に合った配置と動きを求めることで結果を出さなければなりません。
広島カープでは、緒方監督は特に中・長期戦略に長けており、5月の打線固定はまさにその長所を発揮した結果だと思います。
広島カープでいう中・長期戦略とは、金銭による補強はほとんど期待できないため、選手を徹底的に鍛え育成し、その中で這い上がってきた選手を見極め、いったん能力と可能性を信じたらとことん使う、不調でも成績が悪くても結果が出るまでプレーさせる、それが「広島の野球(戦略)」と筆者は思っています。
集約すると、広島の野球の中・長期戦略とは、「継続と自分の長所を活用する」ことでしょう。
短期戦略と切り分けの難しさ
一方で、CSや日本シリーズなどの野球での短期戦略は、緒方監督の得意とする中・長期戦略とは逆の戦略で「臨機応変と相手の弱点を突く」ことでしょう。
過去には、中日の落合監督が完全試合の直前で投手交代を行うという戦略は、一見(シーズンの)常識では考えられないように見えますが、日本シリーズの短期戦略「臨機応変と相手の弱点を突く」という点で見ますと至極当然のことなのです。
これは筆者の想像なのですが、この戦術の切り替えが自然とできる監督がシーズンと日本シリーズの勝利数を積み重ねている名監督(野村氏、森氏、古葉氏など)、次に長い失敗経験を経てその切り替えができるようになり日本一を獲得する監督(星野氏)、戦術の切り替えができずシーズンのみの優勝で終わる監督、シーズンでも優勝できない監督の4つに大別されます。
自然とできる天才肌の監督は別格としても、選手・監督経験を通じて短期、中・長期戦略の理解・切り分け・実行ができる監督は各球団が求めています。
とくに広島カープは、外部の元選手・監督やFAなどで出て行った元選手は監督になれないこと、そして契約は5年間という不文律があるため、広島カープの経験のみでしかも5年以内でシーズンと日本シリーズを勝たなければならないという厳しい制約があるのも事実です。
緒方監督は今年で5年目です。最終年と思われる今年こそ、短期・中長期戦略の切り替えを行ってシーズン優勝と、日本一の両方を獲得してほしいと思います。
まとめ
ファンや観客は冷静に試合を見ることもできますので、ここは短期戦術で・・長いシーズンは長期戦略で、というのは自由ですが、実際に戦っている首脳陣はなかなかすんなりとは切り替えられないのも理解できます。
ただ一つ言えることは、過去3年間日本シリーズ・CSで行っていた「広島の野球」では、日本一になれないことは実証されました。
こだわるポイントを「広島の野球」から「短期戦で勝つ広島の野球」に、柔軟な発想で戦略を切り替えてもらえれば、自然と日本一という結果はついてくるのではないでしょうか。